佳作 海のひび

帝塚山中学校 1年 高橋 央

 毎年、夏休みに、世界遺産に認定された所に訪れることを楽しみにしている。今年は、北海道・札幌・函館から北海道新幹線に乗って青森の白神山地・奥入瀬、そして岩手県の平泉に行ってきた。世界遺産を見るのは、もちろんのこと、いつも、その土地のおいしい名物もすごく楽しみにしている。「食材の宝庫」といわれる北海道に行くのだからなおさらだ。
 JR函館駅に着くと、海が見えた。海のない県・奈良に住むぼくは、歓声をあげてしまった。海を見ると、ワクワクする。海の香りに心地よさを感じていると、威勢の良い声としょう油のこげた香ばしい匂いがしてきた。それは函館の朝市だ。この朝市で行われている「活イカ釣り」は、この旅の一つの楽しみだった。函館近海で獲れた活イカを専用の釣りざおで釣り、釣れたイカをすぐにさばいてお刺身にして味わうという朝市ならではの体験ができるのだ。
 ぼくは、市場の中に胸をふくらませて、ワクワクしながら走っていった。すると、「活イカ釣り」という看板をみつけた。
 ところが、本来イカがいるいけすには、エビが数ひきしかいなかった。人気があり、その日の朝にとれたばかりのイカが、すべて、他の人が釣り、刺身になり、食べられてしまったのかと、落ち込んだ。その時に、店にはってある紙が目にはいった。なんと、そこには、「海がしけて、水あげなし」と書かれてあった。納得がいかなかった。なぜなら、函館の陸では、快晴ではないものの雨が降っていなかったからだ。
 ぼくはまだあきらめなくて他の店では、やっているのではないかと、市場中まわった。しかし、どの店もいけすは空っぽだ。よくみてみると、新鮮な魚は、店先にはならばずに、干しものや加工品のみが、ならべてあった。はじめの店に戻って、店員さんに聞いてみた。
「海がしけるって?」
「海の波が高いというよりかは、風が強い時は、海にでれないんだよね。明日は、海にでれるかなあ。」
 店員さんは、笑顔がなかった。
 漁師さんは、午後三時頃出港し、翌朝四時頃帰港すると、聞いた。昼夜逆転の毎日で、大変な仕事だ。さらに、最近の異常気象で、漁にでれない日が多いという。海にでて漁をするという仕事で生計を立てて、常に危険と隣り合わせの漁師さんは、自然の海というものに、大きく影響されているのだと、改めて思った。当たり前にスーパーで買って食べていたぼくは、考えさせられた。
 最近では、多くの国が、魚を乱獲して、海の水産資源が、枯渇し始めてきたというニュースをみたことがある。海でとれる魚は無限にあるわけはない。世界規模で、海の資源について考えないといけないときになってきた。また、日本の漁業就業者の減少や高齢化が進んでいるともきいた。おいしい魚が、食べ続けられるような仕組みづくりが大切だと思った。
 まだあきらめなかったぼくは、次の日にも朝市をのぞいてみた。やっぱりいけすにはえびだけがはいっていて、また貼り紙がしてあった。これで函館をあとにするには心残りで、えび釣りをさせてもらった。すぐにさばいて下さり、エビのひげがまだ動いている状態で口にはこんだ。ぷりぷりとしたはごたえがあり、とてもおいしかった。今回、函館で「活イカ釣り」ができなかったので、リベンジをするために再び函館にいく楽しみができた。

 

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2018年12月01日